コラム

下肢静脈瘤Q&A

神奈川新聞「教えて!ドクターQ&A」に掲載された村山理事長の記事をご紹介します。下肢静脈瘤についてのご質問にお答えしております。

Q1 下肢静脈瘤の症状や治療法について

Q2 手術のタイミングについて

Q3 下肢静脈瘤の再発について

Q1:足にこぶのようなものが浮き出ているのが悩みです。「下肢静脈瘤(りゅう)」という病気かもしれません。症状や治療法について教えてください。

A:下肢静脈瘤は、よく見られる病気の一つで、日本では患者数1千万人以上と推定されており、足の表在静脈の逆流防止弁の破綻から起きる良性慢性進行性疾患です。静脈の血液は上へ向かって心臓に古い血液を戻す役割を持っていますが、運搬のための逆流防止弁が働かなくなり、古い血液がずっと足の下の方に滞る病気です。自然に治ることはありません。ゆっくりと進行していきます。

 次に症状についてお話しします。足の血管が膨らんでこぶのように目立ったり、むくみ、足がつる(こむら返り)、かゆみ、痛みなどが最初に起きます。その後、数年かけてゆっくりと進行し、皮膚の湿疹、黒い色素の沈着、皮膚の潰瘍、血栓による痛みなどのトラブルが起きます。いったんトラブルが起きだすと、治療に長く時間がかかったり、血栓のトラブルが起きたあとでは手術が難しくなったりします。そのため早期の段階で、予防・治療していくことが大事です。

 治療は、①弾性ストッキングをはく圧迫療法②注射で血管を固めて静脈を閉塞させる硬化療法③レーザーなどによる手術療法-があります。①弾性ストッキングは足先から段階的に圧力が設定されており、はいているだけでマッサージ効果があります。はくのにコツが必要ですが、はいてしまえば違和感はありません。静脈瘤の症状を改善し、進行の予防、手術時の補助療法になります。②の硬化療法は、網目状やクモの巣状静脈瘤と呼ばれる細かい軽度の静脈瘤に行われる治療です。日帰りで行われる簡便な処置で、保険適用の治療です。欠点は注射後の色素沈着で経験的には10~20%の頻度です。この色素沈着は時間がたつと消えることが多いです。③手術療法は昔から行われている外科手術(抜去手術)と新しいレーザー手術があります。両方とも日帰り手術が可能で、保険適用の治療です。麻酔は局所麻酔が基本ですが、静脈麻酔と呼ばれる眠り薬の点滴も使っていきます。寝てる間に手術は終わります。歩いて帰ることが可能で、翌日からシャワーも浴びることができます。術後の日常生活上の制限はほとんどありません。まず、病院でエコー検査を受けてどのタイプの静脈瘤か調べてもらいましょう。

神奈川新聞「教えて!ドクターQ&A」2017.5.24掲載

 


Q2:60代女性です。下肢静脈瘤(りゅう)と診断されて、手術には至らず、現在弾性ストッキングを着用しています。手術に踏み切るタイミングについて教えてください。

A:手術のタイミングはなかなか難しいテーマです。
 まず、「相手を知る」ことが第1歩です。下肢静脈瘤は静脈の血液の流れが滞り、足に古い静脈血がたまってしまう病気で、数年単位でゆっくり進行していきます。古い静脈血は、だるさ、こむら返り、かゆみ、湿疹などをひきおこし、見た目にも血管が浮き出て目立ってきます。さらに進行すると黒い色素沈着がでて、皮膚潰瘍が生じます。また、血栓ができ急激な痛みを感じたり、深い部分の静脈血栓症とも関連することがわかっています。

 進行がゆっくりということは、ひどい状態(色素沈着、皮膚潰瘍、血栓)がなければ、少し考える時間的余裕はあるということです。忙しさや気持ちのゆとりなどと相談していきましょう。もちろん、ひどい状態であれば、できるだけ早めに手術を考えた方が良いと思います。しかしながら、下肢静脈瘤はそのまま治ることはなく、いずれは手術が必要になってきます。ひどくなってからでは治療が長引いたり、色素沈着もなかなかとれません。血栓ができると手術の危険度も増してきます。また、進行するほど手術後の再発率も高くなります。安全面やきれいな術後の仕上がりのためには、ひどい状態がおきる前にスムーズに手術が行われるのが望ましいのです。

 最後に私の経験をお話しさせてください。15年前のことです。私も下肢静脈瘤を患っておりました。走るのが好きだったのですが、右足のふくらはぎにいつもだるさを抱えていました。少し血管も目立ってきたため、超音波検査を受けたところ、下肢静脈瘤と診断されました。しかし仕事も忙しく、なかなか手術に踏み切れず、5年が過ぎたところアメリカに留学が決まり、その直前に思いきって手術を受けることにしました。当時はまだレーザー手術はなく古典的なストリッピング(静脈抜去術)を上肢の先生にお願いしました。静脈麻酔でいつ始まっていつ終わったのかも覚えていません。30分くらいの手術だったそうです。2日目少しひきつりを感じるくらいで立ち仕事にも支障はありませんでした。10日目からは軽いジョギングをはじめ、1カ月でうそのように足は軽くなっていました。以前はとてもだるかったなと実感し、なぜ5年もあの“悪友”と付き合っていたのだろうと考えていたのを覚えています。

神奈川新聞「教えて!ドクターQ&A」2017.8.26掲載

 


Q3:50代の女性です。10年前に下肢静脈瘤(りゅう)の手術を受けたのですが、再発し、また手術が必要と診断されました。どうして再発するのでしょうか。

A:下肢静脈瘤は手術しても再発することがあります。わたしの経験では、10%弱の方が再発し再手術が必要になります。 

 そもそも、なぜ再発が起きるのでしょうか。再発原因について考えるということは、なぜ下肢静脈瘤が起きるのか考えることにつながります。

 下肢静脈瘤の原因として広く認められているのは、『下行(かこう)説』と呼ばれるものです。静脈には逆流防止弁がついており、上に向かってしか血流が流れないようになっていますが、太ももから爪先の方へ下向きに逆流防止弁が順に壊れていくという考え方です。現在、一般的に行われている手術もこの考え方に沿っています。主に太ももなど上の部分の静脈をレーザーで焼いていく術式です。しかし、この一般的な手術でも治りきらない、再発してしまうなど、治療の難しいケースも少なからず存在します。個人的感想ですが、全体の20%くらいがこういったケースに入ります。

 この10数年で、下肢静脈瘤の新しい原因が唱えられはじめています。『上行(じょうこう)説』と呼ばれるものです。足の炎症(ケガや水虫)や内科的疾患(高血圧、糖尿病、心臓弁膜症、がん)何らかの手術など、身体へのストレスシグナルをきっかけとして、動静脈瘻(どうじょうみゃくろう)と呼ばれる動脈と静脈をつなぐ極細の交通血管が拡張発達し、動脈の血液が静脈へ一気に流れ込み川の氾濫のような状態が起こります。静脈が太くなり瘤化(りゅうか)し、その流れが上へ向かって伝わっていくという考え方です。

 この考え方に基づいた場合、検査方法、手術方法も少し変わってきます。主に下の部分の静脈をレーザーで焼くことになります。この新しい考え方、手術はまだ確立されたものではなく、今後のさらなる検討が必要ですが、これまで診断、治療の難しかったケースに対応できるようになる可能性があります。また、しびれ、むくみ、リンパ浮腫との関連性についても、検討されはじめています。

神奈川新聞「教えて!ドクターQ&A」2017.11.14掲載 (2018.2.9再掲)


 

村山 剛也 (医療法人社団慶博会 理事長)

横浜市出身。1996(平成8)年慶應義塾大学医学部卒業。慶應義塾大学外科、東京都済生会中央病院外科、ハーバード大学医学部リサーチフェローを経て、現在医療法人社団慶博会理事長。「日々できるだけ多くの方の診療に現場で臨むことが、自分のミッションだと思ってます」。2018年アメリカ静脈学会(American College ofPhlebology)にてAbstractGrant Winner賞(特別賞)を受賞。